小日記

ただのOL、たまに社長。日々のちょっとしたこと。

TRIP TRAP

金原ひとみの『TRIP TRAP』がすごく面白かった。そして、些細な描写にとても衝撃を受けて、ずっと持っていた自分の考えが変わりそうになった。

『TRIP TRAP』は6つの短編集。主人公は全話とも同じ女性・マユで、彼女が15歳の少女から25歳の大人になるまでが描かれてる。


⚫︎好きなシーンふたつ


「沼津」と「夏旅」の対比(どちらも短編のタイトル)がすごく良い!
少しネタバレすると、「沼津」はマユがまだ17歳のヤンキーの時の話で、女友だちとふたりで沼津に旅行する話。一方「夏旅」は、結婚して社会人になって母親になったマユが、ひとりで突然江ノ島に一人旅に出る話。
マユの周りの人間の見方が、成長したことで大きく変化したことが、感慨深かった。
また、「夏旅」での海のシーンで、大切な人の思い出し方が本当に素敵。


家事に対する主人公のスタンスが、クールで客観的で共感した。
「丁度いい面倒くささに感じられ、(中略)私は怠惰でありながら充実した日々を送ることが出来る」
休日とかそうだよねー、適度に満たされていいよね家事って。


⚫︎考えが変わったことふたつ


マユは夫に対し、すぐに自分の怒りや悲しみをぶつけて、衝突してケンカをするのだけど、それがすごく健全なことに見えた。
私や私の周りには、「衝突するよりも、少し自分が我慢するほうが労力を使わないから楽」という考えの人が多いし、自分としても絶対にこの考えが正しいと思って疑ったことがなかった。
でもこれを読んで、すぐに衝突する夫婦やカップルや心の動きがわかったし、そんなに疲れることじゃないように思えた。あと、気持ちを表現する瞬発力が魅力的に見えた。
「少し自分が我慢するほうが楽」派の人は、考えが変わると思うので、読んでみてほしいです。


デリカシーがないことは、そんなに悪ではないのではないかと思った。
主に文学作品において(わたしが好きで読んでるものに限るかもしれませんが)、デリカシーのない人が良く描かれていることってほぼない。主人公を傷つける存在だったり、主人公の生き辛さの原因になってたりすることが多いように思う。
私自身も、デリカシーのない人は世界で2番目に嫌いだし、物語に出てる人でも好きにはなれない。

そして、この本に出てくるデリカシーのない人物は、マユの夫。

物語の典型として、そんな夫が出てきたら、妻はちょっとした息苦しさや生き辛さを感じているのが常だと思う(例えば、『紙の月』の主人公の夫とか)。少なくとも、明るい未来が見えていることってないんじゃないかな。

なのに!ここではそんな夫が愛おしい存在として描かれていて、けっこう衝撃。
例えば、主人公が泣きそうになったときには「俺は泣く女が嫌いなんだよ」と悪気なく言い放ち、読者としては「こんな人ヤダ……」とか思うわけです。
でも全然そんなことなくて、そんなところをかかえながらも、二人の未来は楽しそうだし希望に満ちてる。
そして読み進める中で、夫のことが本当に愛おしくなってくるし、二人の関係性に憧れすら抱く。
多少デリカシーがなくても心根が優しければ良いのかもしれない。デリカシーがないというだけで、人を好きじゃなくなるのはやめよう、なんて、少し思いました。

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印象的だったところは以上の4つ。
ヨーロッパ旅行中に読んだというのもあって、よけい心に響いたのかも。